小学生になると、通学時やお友達と遊びなど、一人で行動する機会がぐんと増えるものです。地域の犯罪状況によっては、何かと気を揉み心配する機会も増えるものでしょう。
親の過度な心配の気持ちが、子どもの行動の制限することにつながり、子どもの行動範囲を狭めることがあるとすればそれはとても残念なことです。それを防ぐのが防犯教育です。
子どもを防犯脳を強化し、子どもの行動への制限を最小限にする。そしてより大きな自由と裁量を与えられるようにする。それが、親が子にしてやれる防犯教育の力なのだと思います。
この記事では、親から子どもに伝えるべき防犯意識の原則をまとめています。それらはいずれも一朝一夕で子どもに身につけてやれる知識ではありません。場合によっては一年かけて少しずつ教えてやることもあるでしょう。決してお手軽な記事ではありませんが、気になる方だけ目を通していただければ嬉しいです。
教えるべきは簡単な原則
成長と共に広がり続ける子どもの行動範囲に応じて、巻き込まれる可能性のある犯罪の種類も増えることになります。さまざまな事例と子どもなりの対処法を教えることも大事ですが、より大事なのは抽象的で簡単な原則を子どもの頭に叩き込むことだと思います。
原則さえ理解していれば、いろいろな場面での行動に応用可能だからです。この記事では、最低限の原則と、そしてそれぞれの効率的な教え方や伝え方を絞って紹介していきたいと思います。
一、人目の途絶えるところに行かない
二、自分でなんとかしない(他人をたよる)
三、大声は必ず出る
四、隙を見せない
原則1:人目の途絶えるところにいかない
犯罪は人目のつかないところで開始されます。子ども自身の目で、危ない場所とそうでない場所を判断できることが大切です。日頃の会話で着実に見分け方を教えます。
子どもの行動範囲で人目が途絶えるところを一緒にチェックする
子どもの行動範囲を一緒にまわり、人目が途絶える可能性があるところを一緒にチェックします。そしてそこには、子どもだけではいかないように注意喚起します。
たとえば、我が家の近くには公園が五つほどありますが、ひとつの公園には小屋が建っており、その裏にはいかにも子どもが好みそうな人目が避けられる空間が広がっています。それが要注意な空間であることを、理由とともに教えます。
いったん教えて終わりではなく、完全な納得を呼ぶまでは通るたびに話してもよいでしょう。そして習熟度に合わせ、話し方を変化させます。
「ここは人目が途絶える点で犯罪につながるかもしれないから子どもだけでいくのはやめようね」という表現から「子どもだけでこの場所に入っていいのかな?いけないのなら、なんでかな?」へ。子どもが質問に対してスラスラと、応用的な視点もまじえて答えられるようになったら、「他の危ないと思われる場所を指摘してみてごらん」と応用してみるとよいと思います。
スーパーのトイレ、レストランのトイレは一人でいかない
理由は、一つです。人目が途絶えるから。これらはいくつかの犯罪事例とともに教えてあげればよいでしょう。私見ですが、異常な性的関心が犯罪の誘発原因となることは子どもに教えるべきだと思っています。
繊細な子には、犯罪事例を微に入り細を穿ち教えることの弊害も大きいでしょうから、そこは個々の子どもの特性によって対応を変えるべきだとは思います。ただし、今教えられなかった場合にも必ずいずれ内容を明らかに教えなければならないことは肝に命じるべきだと思います。
原則2:他人をたよる
まさに子どもが犯罪に巻き込まれようとしているときになんとか被害を最小限に抑えることができるのは次のうちどちらの考えでしょうか。
- 自分で状況を回避しよう
- どうやって誰かに助けてもらおうか
私は圧倒的に②だと思っています。これは人生のあらゆる状況で同じことが言えると思うのですが、ピンチが訪れたときに、いかに周囲の人間の力を巻き込み問題を解決することができるかが人生を左右すると思うのです。全く同じことが犯罪の現場においても言えるでしょう。
子ども一人では非力なのは当然です。そこに知恵のあり正義感のある大人が加われば勝率が上がるに決まっています。「何かあったら周囲の助けを仰ぐもの」。これを前提に細かい情報を設定した事例をつくり、子どもと一緒にどうするべきかを考えます。
ケース1:道を一人で歩いているときに怪しい人につけられたら
子と一緒に道路を歩いているときに、「たとえばこの瞬間この場所で悪いおじさんに追いかけられたらどうする?」この質問への答え方で子どもの理解度をはかり、少しずつ修正をかけてあげましょう。
たとえば「少し離れた無人の自宅まで逃げる」はこの場合間違いです。「誰かの力を借りる」という原則から離れているからです。この場合は、すぐ近くのコンビニに逃げ込む。近くの知人の家に逃げ込む、など、すぐに大人の力にアクセスできる方法を原則に立ち返りながら教えます。
ケース2:候補の他人が数人いたら
人目の多い場所で堂々となんらかの犯罪に巻き込まれそうになったと仮定します。その場合は、協力対象の数人の候補の中から選択して助けを求めることになるのでしょうが、その際に「そこの青い服のお姉さん、私を助けてください」と指名するように指導します。「誰か助けて!」では誰も助けてくれません。
普段から「他人に声をかける」という行為に慣れさせておくのも重要です。店員さんへの質問は自分でさせる、極力自分のものは自分でレジを通させる、そして何より、親自身が普段から駅員さん、パン屋さん、街の人と積極的に関わり質問する姿を見せ、「他人に声をかける」ハードルを本人の中で下げておくことも重要でしょう。
注意点
「一人の力じゃ不十分だから必ず他人を頼りなさい」という教えは裏を返せば、「あなた一人の力は不十分である」という意味にもなり得ます。しかし有事の際に、「自分の力は不十分である」という認識でことに臨むと勝率が下がります。
ですので可能であれば、「あなたの力は十分であり、何が起こっても必ず良き対処ができる。しかし、他人の力を使えばもっと良き対処ができる。」という前提をもって教えてあげることができればいいかな、と思います。
親子間の心的絆が強い場合、子は親の言った言葉を予想を上回る形で吸収してしまうものであり、それを基に自己イメージを形成します。そうして作り上げた自己イメージが有事の際の行動の邪魔をしないように、注意したいものです。
原則3:大声をあげる
他人の助けを得るために、重要なのは他人の注意を引くことです。ピンチが訪れたらなんでもいいので大声で話す。大声をあげる。これがとても重要です。
そのことの教え方について一つ体験談なのですが、私は自身の親から「ピンチのときは人間は大声をだせないものだ」と聞かされて育ちました。人から襲われそうになっても大声はだせない。「出せると自信を持っている人間が一番だせない。」と教わってきました。おそらく親は、そうすることで注意を喚起したかったのだろうと思うのですが、幼き私にとってそれは非常に恐ろしい話であり、その後頻繁に「他人から襲われる状況で声が全くだせない」という悪夢を見ることになりました。親の話しぶりはその意味で逆効果でした。
この経験を逆手にとり、娘には「ピンチのときは自分でもおっと思うくらいに大きな声が出るものだよ。びっくりしてだせない人もいるみたいだけど、あぴちゃんにはすごく大きな声が出せると思うよ。」というふうに伝えています。
原則4:隙を見せない
犯罪の標的になりやすい傾向の人がいると思います。これは自分の経験からほとんど確信を持っていえます。大人であれば、さまざまな方法で犯罪に遭いにくい見た目や態度を演出することができます。ただし、子どもにそれを求めるのは酷というものでしょう。
娘にはシンプルに、「ランドセルを開け放して歩かない」「道を蛇行して歩かない」「身なりをきちんとする」。ということを伝えています。
蛇足ですが、娘の持ち物には外側から目立つ形で名前の記入はしていません。それは、名前を勝手に知られた上で娘の名前を呼ばれて娘に近づかれることを防止するためです。子どもには、あなたの名前を知っている人だからといってあなたと近い人であるとは限らないし、犯罪者は名前を事前に調べて知っている可能性もあるということを教え込んでいます。
あとは防犯ブザーは必須アイテム。見た目で防犯ブザーとはっきりわかり、音の大きいものを選びたい。娘が使用しているのはこちらのピカチュウの防犯ブザーです。音の大きさは十分でした。
最後に
防犯教育は日々アップデートしていくべきものです。地域の犯罪のニュース、全国のニュース、どんな危険が想定されるか、こういうことを日々日常会話の一部として話し合うことがとても重要だと思います。
またその際に、むやみに怖がらせない注意も必要です。あくまで犯罪が自分の身に起きる確率はとても低いこと、日本の犯罪率は下がり、検挙率は上がっていることなども同時に教えてあげるとよいと思います。
反響があれば、後編としてGPSや携帯電話を持たせることなど親が子どもにしてやれる物理的対策について記事を書きたいと思います。